2019〜2020年、世界で最も評価された映画

カンヌ映画祭のパルムドール受賞。アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4部門で受賞。双方の最高賞を受賞した作品は65年ぶり。2019年から2020年にかけてのあらゆる映画賞を総なめにしたといえるだろう。

韓国映画で、監督はポン・ジュノ。

韓国の人口の1.9%といわれる半地下の家に住む貧困家庭が、IT長者として成功した男の幸せな家庭に侵食していく様子を描く。


実際、傑作だと思う。好きか嫌いかといえば、あまり好きではないが。

(以下、多少のネタバレを含みます)

でも、誰もが感情移入できる物語

多くの人にとって、貧困なキム一家にも、裕福なパク一家にも感情移入できるのではないだろうか?

世は思うようにいかない。買えないものもあれば、裕福な人に対する嫉妬を抱くこともある。ああ、世はこれほど華やかなのに、自由になる金はない。実際、冒頭ではコミカルの描かれるキム家の貧困も多くの人にとっては他人事ではないだろう。

一方、他社を見下ろす立ち位置に立つこともあるだろう。スウェットを着てジャンクフードをむしゃむしゃと食うマイルドヤンキーの家族や、ホームレスを見て「ちゃんと働けよ!」なんて思うこともある。

つまり、この映画は、少なくとも前半部分においては、どちらに感情移入することもできる。

そして、キム一家がパク一家に侵入しはじめると、コミカルな中にも緊張感が漂ってくる。

もし、自分が脚本家だったら、ここからどう展開する?

そして、物語の大きなターニングポイントになる、パク一家がキャンプに出かけ、キム一家が豪勢な邸宅で、豪華な食材で庶民的な宴会を始めるシーン。

この物語、こっからどう展開するんだと。もしくは自分が脚本家だったら、どう展開するだろう……と考えてしまった。

ここまでは喜劇っぽく推移している。

しかし、カンヌ映画祭の作品賞を取るぐらいなのだから、単なるドタバタ劇では終わるまい。

喜劇として推移するのか、それとも意外な悲劇が始まるのか?

その後の展開についてはここでは細かくは語らずにおくが、インパクトがあることは確かだ。

ポン・ジュノは何を伝えたくて、世界は何を受け取ったのだろう?

貧富の差。貧しい人たちの力強さ。浅ましさ。裕福な人たちの愚かさ? この結論で罰を受けたのは誰だろう? 誰も幸せにはなっていないし、不幸になった人が罰を受けたという描かれ方でもない。ただ、単純に淡々と起こった事実が描かれる。

実はルーツはどちらも防空壕

(ここから先は、より結末に触れるので、完全ネタバレ注意)

亡くなったのは4人。家政婦夫妻と、キム家の娘と、パク家のご主人。パク家がその後どうなったのかは描かれないが、この家が売りに出されるのだから、パク母と、姉弟はどこかで生きていかなければならない。キム家の父は地下に隠れ、キム母と息子はこれまで通り貧しく暮らす。

キム家の息子は、頑張って裕福になって、その家を買い取ることを夢見るが、今の韓国のそれほどのビッグドリームが転がっているわけではなさそうだ。結局キム父は地下で暮らし続けるわけで、それは家政婦夫がやっていたことをそのまま継続するカタチ。借金や罪に追われた世代の『呪い』を引き継ぐ感じだ。

キム家が最初に住んでいるような『半地下』の家は、もともと北朝鮮の攻撃に備えた防空壕だったのだそうだ。それが次第に住宅に転用されるようになってしまったらしい。パク家の地下室も、北朝鮮が攻めてきた時に隠れるために作られたスペースだと語られる。

なぜだか、北朝鮮からたった30kmほどの距離にあるソウルは、それほど危険と隣合わせにある。個人宅だけでなく、街中でもやたらと地下街、地下鉄が多いのも、攻撃を受けた時に、最初の一撃を逃げ延び、抵抗するためらしい。

この映画の底流に流れる、日本人にはない刹那的な感じは、そんなソウルに暮らしている人たちの諦観を表しているのかもしれない。

日本ににとって、とても近くて遠い国、韓国の心情をもっと理解したくなった。