リュック・ベッソン監督の「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」がようやく日本でも公開されています。欧州やアメリカで先に公開されて、興行的にはなかなか厳しいものがあったみたいですが、監督のファンも多い日本のこと、この作品はどのように受け止められるのでしょうか?

ところでこの作品「ヴァレリアン」という名前だけになっていますが、もともとはフランスのSFコミックで、シリーズ名は「Valérian et Laureline ヴァレリアンとローリーン」。二人の時空エージェントの活躍を描いたコンビものです。

そして、SF映画の元ネタの宝庫としても知られているんです。

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「ヴァレリアン」シリーズを生み出したのはジャン=クロード・メジエールとピエール・クリスタンの幼なじみの二人で、最初の一冊、荒廃した過去の地球に時間遡行する冒険を描いた “The City of Shifting Waters” が登場したのは1967年です。「2001年宇宙の旅」が封切られる1年前にあたります。

古典的なヒーローで、勇気と行動力はあっても多少頑迷なところのあるヴァレリアンと、その相棒で、いつも捕まったり怪光線で小さくされたりして「なんで女ばかりがこんな目に遭うの!」と不満げなローリーンという二人のカップルはとても先進的で、本当に1967年にシリーズが始まったのだろうかと思うくらいです。

むしろ、このシリーズの魅力はステレオタイプ的なヴァレリアンよりも、知的で、より束縛から自由なローリーンのキャラクターによって支えられているところがあるので、映画の題名が片方だけだったのは往年のファンから見ると残念!

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そして「ヴァレリアンとローリーン」は、「スター・ウォーズ」をはじめとする1970年代以降のSF映画のビジュアル的な原典になっていることでも有名です。

「ヴァレリアン」自身はそれに先立つ1950-1960年代のSFスペースオペラの小説などに強い影響をうけているわけですが、それを映像化するとき、まだまだお手本が少なかった時代だったわけですね。

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映画化に際して再販されているコミックには、最後のページにそのあたりのうんちくを紹介しているページがあります。

たとえばミレニアム・ファルコンのシルエットと推進部の構成は、ヴァレリアンの宇宙船に酷似していたり、レイア姫の有名な奴隷衣装も、あの時代っぽいですよね。

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これなどは本当にそのままなのですが、カーボンフリーズされたハン・ソロのビジュアルは、「千の惑星の帝国」で囚われの身になったヴァレリアンの様子にそっくりです。ジョージ・ルーカスが敬意を込めてオマージュしているのがわかります。

ほかにも、宇宙人のデザインや、仮面の下の素顔といった要素など、ベースになっているビジュアルは多数あります。

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もちろんこれは秘密でもなんでもなく、「スター・ウォーズ」が「ヴァレリアン」シリーズだけでなく、「隠し砦の三悪人」から「ダムバスターズ」に至るまで、さまざまな映画のカットをそのまま流用していることは広く知られていることです。

あれ? ということはリュック・ベッソン監督も…?と思った人はもちろん当たっていて、そもそも監督が一番映像化したかったのがこの「ヴァレリアン」シリーズで、フィフス・エレメントのビジュアルも多くのインスピレーションをこのコミックから受け取っているわけです。

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ヴァレリアンのコミックをいま開くと、そのビジュアルからは何が元ネタなのかという話題よりも、それが描き出している未来像の華やかさに心を奪われます。

宇宙を駆け巡る商人たち、異星人たちの多様な文化、いずれは人類もそこに到達して宇宙の一員になれるはずだという希望に満ちたまばゆい未来。

いまのSF映画はディストピア的なものが多く、こうした光り輝く未来のビジョンはあまり見なくなってしまいましたが、今回の映画「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」はそれに対する10倍返しと言わんばかりのすさまじい映像体験を与えてくれます。

なんなら、そのビジュアルを見るためだけに行くのもいいのではないでしょうか!