壮大で、壮麗で、騒々しくて、ある意味ゴミゴミとしていて……大陸のスケールの大きさというのは、我々島国日本の人間にはなかなかピンと来ない。

が、ひとたび知ってしまったら、その魅力に圧倒されてしまう。

最近、インド映画の『バーフバリ』が話題になったが、あの破天荒なパワーはもともとインドにあったもの。馬鹿馬鹿しい奇想天外さは昔からインドの神様を描くマンガなどにもあった。

一方、中国の魅力はなんといってもそのスケールと、緻密さだ。4000年に渡って、広大な中国大陸で繰り広げられてきた勢力争い、権謀術数の寄せては返すような闘争の歴史、広大な建築物……いずれもその奥の深さは、どの部分を切り取っても面白い。

『空海—KU-KAI—美しき王妃の謎』は、そんな中国の壮大な歴史の一片の謎に、日本の僧、空海が巻き込まれるという物語だ。

(以下、多少のネタバレを含みます)

なにもかもが壮大なスケールという『ザ・中国』

『空海』が舞台とするのは、唐の時代の中国。

唐というのは、古〜い、殷王朝や周王朝が終わって、春秋戦国時代があって、秦が中国を統一して、漢の時代があって、三国志の時代があって、そこからもう少し下った時代。唐の時代は割と長く続いて300年ぐらい安定した時代が続き、日本の江戸時代じゃないけど、文化が成熟した時代。西暦でいえば800年頃。

その唐の時代に、日本から密教の教えを受けにやってきた空海を切り口に物語が始まる。空海と一緒に活躍するのは後の大詩人白楽天。皇帝がかかる奇病や、街の人たちに降りかかる災いの源をたどるうちに、ふたりは数十年前に死んだ楊貴妃や阿部仲麻呂のミステリーに巻き込まれて行く。

この映画でなんといっても魅力的なのは、その壮大な舞台設定。唐代にシルクロード貿易で栄えた長安(今の西安)をCGではなく再現するために、なんと4年の歳月をかけて東京ドーム8個分に相当する場所に広大なセットが作られたという。植えられる木々にしても、その場に馴染んで枝を伸ばし、その場の光に合わせて葉を開くように馴染むのを6年も待ったという。

空海と白楽天が駆け抜ける広大な長安の街には、常に300人以上のエキストラがまるで長年その街に住んでいるかのように動き回る。楊貴妃の時代に開かれる『極楽の宴』の壮大な美しさは、まさに大陸中国に花開いた文明の精華そのもの。この映画の最大の見どころのひとつだろう。

描かれるのは中華の頂点に立つ者の富と栄華。中国史上最高の美女と言われる楊貴妃。そして、それらをめぐる人々の権謀術数と愛情、嫉妬、渦巻く感情が描かれ、そして呪い、幻術……と、確固たる歴史の世界は、いつしかファンタジーへと広がってく。

憧れた大陸の巨大都市がそこに現れる

ちなみに原作は夢枕獏が17年をかけて執筆した長編『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』。監督は中国の世界的巨匠チェン・カイコーが製作期間実に8年をかけた。主演も空海は染谷将太、白楽天に中国の若手実力派ホアン・シュアン、阿部仲麻呂に阿部寛(ダジャレかと思ったがハマリ役)、楊貴妃にフランスとのハーフの絶世の美女チャン・ロンロン……と、日中共同の大プロジェクトとなっている。日本ではなんと東宝×KADOKAWAの共同配給。

着物の刺繍というような精密なディテールから、はじまり画面を埋め尽くすような膨大なエキストラ、夕日の光に霞むような遠くまで作り込まれた(そのあたりはさすがにCGかも)長安の街という壮大な舞台まで、非常に美しい、ドラマチックに作られた映像は実に中国らしい。

バーフバリでインドを満喫したあとは、ぜひ『空海』で中国を満喫していただきたい。