小学校高学年の女の子が、異世界に行く話。いわゆる『往きて帰りし物語』。

エルマーの冒険から、指輪物語に至るまで、往きて帰りし物語は山ほどありますが、主人公が小学生の女の子ということで『千と千尋の神隠し』を一番思い出した。

監督は、『クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』『河童のクゥと夏休み』などで知られる原恵一。

そして、キャラクター、メカニック、プロップ、イメージボードデザインは、原監督に見出されたロシアから来たアニメ好き、イリヤ・クブシノブ。

一度みたら、その魅力にいっぱんに取り憑かれてしまう実に魅力的なキャラクー、と不可思議な世界、ユニークな建築物の数々は、彼によって生み出されている。

アベンジャーズ・エンドゲームが話題のこのGWだが、本当に見ておくべき傑作はこの『バースデー・ワンダーランド』かもしれない。

(以下、多少のネタバレを含みます)

まずは、イリヤ・クブシノブのキャラクター萌え

まずは、アカネとミドリ、チィのキャラクターが素敵。


イリヤ・クブシノブって、Instagramで160万人がフォローするロシア出身のイラストレーター。この6年半ほどの間に2300点以上の作品をInstagramに投稿しており、イラスト、アニメ好きの間では話題。

Ilya Kuvshinovのインスタグラム

ずっと、イラストを遡って行くと、初期にはラムちゃんや、キキ、エヴァのアスカがいたりして、マンガやアニメが好きな人だと分かる。

そもそも、顔出しはしていなかったので、本当にロシア人なのか、日本人のペンネームなのか? 男性なのか女性なのかわからなかったのだが、この映画のキャンペーン中に初めて顔出しした写真が投稿されて、本当にロシア人、しかもかなりのイケメンであることが分かった。

実は彼、ロシアのとある地方で生まれ、11歳の時に才能を見出されて、実家を離れて、モスクワのアートスクールへ。国費で、デッサン、建築、デザインなどの英才教育を受けている。大学も建築学科。

エルミタージュ美術館のある国の国費の英才教育である。そりゃバリバリだと思う。

ところが、彼は6歳の時に見た攻殻機動隊が忘れられず、立派なアニメ好きになってしまう。彼が日本に来たのは4年前24歳の時(つまりまだ彼は28歳なのだ!)。

日本こそがワンダーランドだ

僕らにとっての日本は、景気が悪くて、「保育園落ちた日本死ね!」ってお母さんが書かなきゃイケナイほど行き詰まった国で、東京一極集中でゴミゴミしてて、我々にしてみるとかなり残念な国だ。しかし、イリヤ・クブシノブにしてみると、「憧れのアニメの国で、アニメの中でしか見た事がない世界が広がるワンダーランド」なのだそうだ。

イリヤ・クブシノブがはるか東欧で見ていた夢の国に移り住んで、ついに実際にアニメ制作に携わる、しかもキャラクターから世界観まですべてを作る側になるまで、たった4年間。

しかし、この「バースデー・ワンダーランド」のキャラクターと世界観のデザインには、彼のロシアの地方で育ち、ロシアで教育を受け、日本にやってきた人生のさまざまな局面が活かされていると思う。

雪に埋もれた『ソコビエの町』、牧歌的な『ケイトウの村』、『荒野』や『ニビの町』『サカサトンガリ市』、エキゾチックな『オオニバスの湖』……いずれも、彼のロシアでの生活にヒントとなった風景があったのではないだろうか?


そして、現実の世界として登場するのは東京の世田谷、二子玉川(とは言われないが、明らかに。自転車で橋を渡るところをみると、アカネの家は川崎側にあって、チィの店はライズから少し下ったあたり(風景からすると上がったあたりにも思えるが)にあるようだ)。

我々にとっては現実の町だが、もしかしたらイリヤ・クブシノブにすると、ヒポクラテスの住む世界の方が現実で、我々の世界の方がワンダーランドなのかもしれない。

日本アニメ界は、ロシアからすごい贈り物を受け取ったかも

イリヤ・クブシノブの絵の魅力は、アニメっぽい絵でありながら、血が通い、骨格があり、筋肉がある、存在感があること。これは天賦の才もあるだろうが、ロシアの英才教育で身に付いたものだろう。逆に彼が上手すぎて、アニメっぽい平面の世界で絵を描いてきたアニメーターたちがついていけないかもしれない(実際、実に3000枚もの原画を彼が修正したらしい)。

また、大学では建築を学んでいたから、彼が背景として設定した家は『ちゃんと住める』のだそうだ。つまり、間取りはもちろん、柱があり、壁があり、ちゃんと構造としてウソのない建物になっているということだ。

もしかしたら、彼は日本のアニメの世界で、もっともっと羽ばたいて行く人になるかもしれない。日本アニメ界は、ロシアからすごい贈り物を受け取ったのかもしれない。

映画の物語自体も、後半二転三転する展開になっているし、細部にもいろいろ隠されたネタがあり面白い(チィの店にクレヨンしんちゃんのフィギュアがあったり、お母さんの名前に秘密があったり、カーペットが……)。

家族で安心して見られる映画なので、特に小学生ぐらいの娘さんのいる方は、ぜひ一緒に見に行っていただきたい。

最後に2〜3

・ソフトトップのクルマがひっくり返ったら、屋根は潰れるでしょ! そこは気になる(笑)

・チィの店はいいよね。子供の頃の親戚(のようで実は違ったが)のお兄さんがこういう人で、アフリカ原住民のお面とかいっぱいあったので懐かしかった。

・実は、アカネはともかくチィが好み。こんな人、身近にいたらいいだろうなぁ……。

・イリヤ・クブシノブも原恵一監督もスターウォーズ好きということだが、ザン・グはグリーバス将軍に似すぎてないか?(と思ってグリーバス将軍を改めて見直してみたが、それほど似てなかった……w)