私は、音楽方面は詳しくないので、Queenについては通り一辺のことしか知らないので、「一応……」ぐらいの気分で見に行った。

ところが、どうだ。2時間15分の上映時間があっという間。最後の30分は、なんだか目から汗が滂沱のごとく。左右のお客さんを見ると、やはり目をしきりにぬぐって、しまいには鼻をかみだす始末。

なんだ、これ、こんなに泣ける映画だったのか?

もちろん、お涙頂戴の映画ではない。フレディーマーキュリーの、Queenのメンバーの生き様に巻き込まれ、惚れてしまい、そしてその先に待つ、誰もが知ってる『フレディ・マーキュリーの死』に立ち向かう激情と、愛情と、哀しみに泣かずにはいられないのだ。

(以下多少のネタバレを含みます)

彼の力強い人生に感動させられる

なぜこんなに感動させられてしまったのだろう?

冒頭は誰もが知っている曲のイントロから始まる。ラミ・マレック演じるフレディ・マーキュリーが、後ろ姿からでさえ分かるそのしぐさで楽屋を抜け、ステージへの扉を開ける。扉の向こうは、伝説となった’85年のLIVE AIDのステージだ。

そこで、物語は過去に戻り、出っ歯の少年が、スマイルというバンドをやっていたブライアン・メイとロジャー・テイラーに出会い、自分をボーカルとして売り込むところから始まる。

そこから始まるのは、苦難の不遇の時代と、そこから駆け上がっていく、いわゆるサクセス・ストーリーだ。

売れれば売れるほど浮き上がっていくフレディ・マーキュリーとバンドメンバーとのいざこざ、売れない時代から一緒だった彼女とのすれ違い……などは、よくありのサクセス・ストーリーのようにも見えるが、それでも圧倒的なのは、それがQueenのサクセスストーリーだからだろう。

そして、物語は怒濤のクライマックスへ。フレディの天才性が暴走し、しかし音楽は圧倒的に売れ、同性愛の性向は抑えられなくなり、そして、らんちき騒ぎの果て、HIVへの感染が判明し、フレディはそれを受け止め、メンバーとともに、最後のライブ(であるかのように演出された)LIVE AIDのステージに立つ。

そこからは、実際のフレディ・マーキューリーの声を主に使ったLIVE AIDのシーンが20分ぐらい続くのだが、それが圧巻。これまで映画で追ってきたフレディの半生と、歌詞がオーバーラップし、心を強くゆさぶる。それほど音楽に、Queenに詳しくない私だってそう思うのだから、音楽好きの人はたまらないだろう。

多少の演出はあるようだが、それが問題にもならない楽曲の迫力

主人公であるフレディ・マーキュリーが世を去って27年が経つとはいえ、存命の人が多い時代の伝説を映画にするのはさぞかし難しいことだろう。演じる人も難しいに違いない。

どこまで史実を忠実になぞっているのかは分からないが、詳しい人によると、かなりの忠実度らしい。フレディはじめQueenの面々も他人が演じるころになるのだが、厳密な顔の造作はともかく、ジェスチャーやしぐさ、雰囲気は違和感ないらしい。

映画では、LIVE AIDが最後のライブであるかのような演出になっているが、実際にはそのあとも活動している。とはいえ、LIVE AIDをクライマックスに持ってくるストーリー展開は分かりやすくて正しいと思う。

とはいえ、Wikipediaによると、彼が検査を受けてAIDSだと判明したのは’87年だとの記述があるので、LIVE AIDの前にメンバーにAIDSだと告白して、ステージに上がるというストーリー建ては少々事実と違うのかもしれない。

しかし、多少の演出があったとしても彼の生きざまが、彼の音楽の元となり、それが多くの人を感動させたことに変わりはないだろう。それを追体験できる貴重な映画だ。Queenを愛する人も、そうでない人にも、ぜひ見ていただきたい映画である。