予感はありました。

しかし、準備とか覚悟といったものまで心を動かしていた観客は、超満員のZepp ダイバーシティにどれほどいたでしょうか。

「何かが起こる」

邪道と評される事務所への期待とも渇求とも言える感情は誰しもが持っていたでしょうが、まさかこれほどまでの結果になるとは。

複雑に絡み合った運命の糸が、実はアリアドネの糸玉だった。

私達「遊び人」が目撃したのは、魂の解放だったのです。

TOKYO IDOL FESTIVALの2日目、8月4日。

この日はWACKのアイドルたちが集中してHOT STAGEに出演する予定であり、BiSHもラインナップされていたことから舞台となるZepp ダイバーシティには、地獄の釜蓋が開いたような炎暑の中、過酷な入場待機を厭わぬスレイブたちが大挙として押し寄せていたのです。

13時30分、BiS 2ndが急先鋒として「BiSBiS」を披露。しかしそれが連続された時、会場中の誰しもが「やりやががったな」とニヤついたことでしょう。

しかし「BiSBiS」3連発の後、歌われたのは「GANG2」。これはBiSの曲ではなくGANG PARADEの曲であり、9人の現体制となって初めてシングル曲、新たなアンセムとも言われる楽曲です。

なぜBiS 2ndが「GANG2」を・・・?

とはいえ、そんな疑問を感じた観客は少なかったはずです。

なぜなら、BiS 2ndのメンバーであるアヤ・エイトプリンスはトレードによってGANG PARADEに籍を置いたことがあり、現メンバーと今も固い絆で結ばれていることを多くの研究員が知っているからです。

唐突なトレードによる移籍でしたが、天衣無縫の極みとも言える彼女のキャラクターはGANG PARADEにフィットしており、このままアヤがギャンパレに残ってくれたらと思った遊び人もいたはず。

もしトレードが無期限に続いていたら、「GANG2」をアヤが歌っていたかもしれない。

だからこそ、「幾多のドラマから選択を迫られて」という歌詞を歌い上げた彼女の表情、彼女の声には感傷的にならざるを得なかったでしょう。

ここまででも十分にエモいのですが、話がここで終わらないのが、さすが天才プロデューサー渡辺淳之介の方略。

その後続けてBiS 1stが「BiSBiS」5連発、そして再びGANG PARADEのアンセム「Plastic 2 Mercy」が演奏された段階で、超満員のZepp ダイバーシティには確信に満ちた熱病が蔓延します。

今日、WACK勢は同一楽曲連続の後、姉妹グループの楽曲を歌うのだと。では、GANG PARADEが最後に歌うのはきっとあの曲であると。

 

17時35分。

HOT STAGEに立ったのは、GANG PARADEでした。1曲目が「Plastic 2 Mercy」であることはスタート時のフォーメーションから、遊び人であればわかったことでしょう。

今日の流れからして、それは同時に5曲連続で「Plastic 2 Mercy」が歌われることを意味していました。

6月16日の男性限定ライブにて「Plastic 2 Mercy」の連続演奏はすでに事例がありましたし、数ある楽曲の中でも随一の激しさを誇る名曲が連発されることを確信したフロアは熱狂の坩堝と化しました。

その時どれだけの人間が、セットリストの締めにまで考えを巡らせていただでしょうか。そんな余裕がある者がいたでしょうか。

予想通りの5連発が終わり、次曲のイントロが静かに流れた時、Zepp ダイバーシティにすし詰めになったすべて観客が感情を爆発させました。

流れたのは「BiSBiS」。

数時間前にBiSが歌った曲をGANG PARADEが歌う、というセットリスト上の符号にだけ観客が熱狂したのではありません。

今のGANG PARADEが「BiSBiS」を歌うことには、様々な意味があったのです。

新生BiSのオーディションに落ち、幻のグループ「SiS」を経てGANG PARADEに加入したココ・パーティン・ココ、テラシマユウカ、ユイ・ガ・ドクソンの3人。

運命が少し違っていれば、彼女たちはBiSとして「BiSBiS」をライヴで披露していたかもしれない。

「SiS」はデビューライヴ翌日に釈然としない経緯の後、消滅。

それでも夢を諦めなかった彼女たちは、自ら行動を起こしてGANG PARADEに途中参加。今や無くてはならない存在となっています。

愛すべきSiS組、愛すべき道玄坂マングースの途切れた夢が、一瞬でも繋がった4分21秒に観客は感動したことでしょう。

そして、何よりもカミヤサキです。

言わずとしれた初期BiSメンバーだった彼女が、GANG PARADEの前身であるプラニメを結成したのが2014年の7月。カミヤサキは「BiSBiS」が発表された2016年には、BiSではなかったのです。

しかし、なんの運命の悪戯か。いや天才プロデューサーの策略か。2017年3月にカミヤサキは再びトレードによりBiSへ。そこで「BiSBiS」を歌うことになるのです。

その後、GANG PARADEに戻り精神的支柱となって背中でメンバーを引っ張る彼女が再びBiSの楽曲を歌うことになるとは誰が想像したでしょうか。

カミヤサキのソロパート「今の私も嫌い でも信じようかな」を絞り出すように叫んだ時、会場の熱情は絶頂に達したのでした。

狂熱の宴が幕を閉じた時、快哉と驚嘆が入り交じる歓声の中で嗚咽も周囲では聞こえるまでに至りました。かく言う私もその1人でした。

なんというエモさ!エモエモのエモ!!

「Plastic 2 Mercy」の大興奮からの「BiSBiS」。9人のGANG PARADEでやる「BiSBiS」というカタルシス。

 

同一楽曲の連続という伝統芸能的悪ふざけと、物語性を持った楽曲のシャッフル。

賛否両論ある演出だったでしょうが、それが伝説的なステージを生みました。

しかし、それは四半世紀程度の人生に想像を絶する喜怒哀楽を包容した彼女たちだったればこそ。GANG PARADEが今の9人であるのは、天の配剤以外の何ものでもありません。

このTIFの舞台は遊び人たちの心に深く刻まれたでしょうし、GANG PARADEの歴史におけるマイルストーンになったはず。

幾多のドラマから選択を迫られた少女たちは、今の自分を信じていることでしょう。

みんなの遊び場は、楽しいだけじゃない。

感情の根っこを鷲掴みして揺さぶられるような稀有な体験を共有できるから面白いんだ!

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