「猫の蚤〜ぃ、取りまっしょい!」というユニークな掛け声で江戸の町を練り歩く『蚤とり』は、猫の蚤を取る建前で、女性に性のサービスを提供する男娼。

真面目一徹の侍・小林寛之進(阿部寛)は、殿様に正直に諌言して不興を買いお役ご免になり、『猫の蚤取りでもして無様に暮らせ!』と、放逐されてしまう。

すでに最愛の妻をなくし、真摯に勤めていたお役目さえ失ってしまった寛之進が、それでも真面目一徹に『猫の蚤とり』に取り組む様が面白い。

まぁ、もうテーマと阿部寛という時点でワクワクしてしまうのだけど、周りを固めるのが、トヨエツ、大竹しのぶ、前田敦子、松重豊、風間杜夫、伊武雅刀と来れば、もうその時点で面白いの確定(笑)

(以下、多少のネタバレを含みます)

原作のふたつの話をミックス

たまたま、私は小松重男の原作を読んだ事があるのだけれど、『蚤取り侍』は1冊に6話入った短編集の中の1話。つまり原作は短くて、割とあっさりした話。

原作には浮気を封じるために一物にうどん粉をまぶされたイケメン浮気者・清兵衛(豊川悦司)や、その妻・おちえ(前田敦子)は出てこない。

実は、清兵衛とおちえが出てくるのは、同じ本の次に載っている短編『唐傘一本』。

この全然別のふたつの話を巧みに組み合わせて、ひとつの話にしたのが映画版の『のみとり侍』なのだ。

監督は、テレビドラマ出身で、『後妻業の女』で知られる鶴橋康夫。『後妻業の女』と同じトヨエツ、大竹しのぶのキャスティングをはじめ、邦画の実力派をずらりと並べたキャスティングが豪華絢爛。

真面目一徹だからこそこっけいで人間味あふれる阿部寛の放逐された侍の立ち居住まいの良さ。イケメンで、エロく、それでいて本音で生きてる入り婿若旦那を演じるトヨエツ。浮気亭主をとっちめる若女将を演じる前田敦子。どのキャラも強烈。

脇を固める、松重豊のワガママ勝手なお殿様、風間杜夫の蚤取りやの親分、大竹しのぶ演じるその妻、桂文枝の田沼意次、伊武雅刀の業つくばりの蘭方医……などなどどの役も超個性的で、それがセクシーかつ、愉快なドラマを展開していく。

あっけらかんとセクシーな『まぐわい』シーン

この映画のもうひとつの見どころは、このテーマだから当然出てくるセクシャルなシーン。

主人公の阿部寛は、その職業設定上、元妻にそっくりな女性役寺島しのぶほかいろんな人とのからみがあるし、中盤にはプレイボーイ役トヨエツの実演指導を思い出しながら阿部寛が寺島しのぶにサービスを提供するようなシーンがあったり、トヨエツの浮気を前田敦子が取り締まるシーンがあったりして、それぞれの役者さんの新境地が見られる(笑)特に、前田敦子ってこんなキャラだったんだと目ウロコw

元々性風俗がおおらかだったと言われる昔の日本が本当にこうだったのかどうかは分からないが、男女同権が叫ばれる昨今、そろそろ性的サービスを女性に提供する職種が生まれてもいいかもしれない(笑)こんなあっけらかんとセックスに取り組めるなら、現代にも『蚤とり侍』がいてもいいかなぁ……なんてことを思ってしまう映画だった(笑)