『空母いぶき』観てきました。

原作はかわぐちかいじのコミックス『空母いぶき』。

原作は超キナ臭くて、航空機搭載型護衛艦『いぶき』の就航の反対運動が盛んになる中、『中国』が、尖閣諸島を占領、さらに与那国島と宮古島に上陸、中国空母広東を差し向ける。広東と『いずも』は否応なしの戦闘状態に突入。しかし、自衛隊の『いぶき』をい中心とする第5護衛艦群は、専守防衛のくびきの中、難しい対応を強いられる……というもの。

『尖閣諸島は中国の領土』『西太平洋の制海権確保のため中国が第1、第2列島線突破の策を練る』というありそうな中国側の意図のもと、かわぐちかいじお得意の、緊迫した政治、軍事ドラマが展開する……という物語。

では、映画では『空母いぶき』はどうなるのか?

(以下、多少のネタバレを含みます)

たしかに、原作通り作れないのはわかる

ご存じの通り、原作にせよ、映画にせよ『空母いぶき』という表現は間違いである。

いぶきは航空機搭載型の『護衛艦』だと自衛隊は表現している。航空機を登載した空母の存在は外国への侵略の意図あり……ととられかねないので、いぶきは『護衛艦』。軍隊ではなく『自衛隊である』というのと同じく、そこに日本の国防の難しさがある。それをあえて、『空母いぶき』というタイトルにすることで、そこにある矛盾をテーマに据えているのだ。

ちなみに、現実にはヘリコプター搭載護衛艦という名目で建造された『いずも』と『かが』を、STOVL能力のあるF-35Bの購入とともに、『航空機搭載型護衛艦』(空母ではないのだ)として運用する計画が進んでおり、『空母いぶき』はこの話をモデルにして作られた話だ。

しかし……残念ながら、というか当然ながらというか、映画では敵は中国ではなくなっている。

たしかに、ほぼ一人が各作品であるコミックスに対して、多くの人が関わり企業としてカタチにし、しかも日本語が読めなくても完全に何をやっているか分かってしまう映画化は問題があるだろう。日本の自衛艦の対空ミサイルで、中国の戦闘機殲20が木っ端微塵になる……という場面、中国兵と銃撃戦……の場面を映像化するのは問題あるだろう。

問題があるのは分かる。が、しかし、それですべてのプロットは崩壊してしまった。

もうね。ツッコミどころしかない!

原作は、中国の国力、それを前提とした強引な(そしてありそうな)軍事作戦、などが前提になっている。

自衛隊のそれよりは、低い護衛艦、戦闘機の性能、兵の練度……と、日本のコストのかかった兵器を使い、練度が高いながらがも政治的に『引きがねを引くことができない軍隊』であることが対比され、まるで詰め将棋のように、お互いの手を読みながら緊迫した場面が描かれる。

それに対して、映画で描かれるのは東南アジアに起こった架空の国『東亜連邦』による侵略である。

これでは、緊迫感の持ちようもない。

極論、東南アジアの軍事政権なら、叩いてもそう大きな問題は起こるまい(問題がある理由も示されないし)。

原作と違って、体験取材中のメディアが『いぶき』に乗ってるし、軍事行動に入ったところを動画に撮って衛星携帯で送ってしまっている。まず、軍事作戦なんだから、報道管制が敷かれるだろうし、衛星携帯は取り上げられるだろうし、明らかな利敵行為だし(作戦や被害状況が敵にバレるし)、メディア側も「これを公開していいのだろうか?」という葛藤もなしに、動画を公開しており、それについて責任を問われる風もない。あり得ない。

戦端が開かれてからも、F-35Bと、敵戦闘機の戦力差も明示されないし、やみくもに航空機がミサイルを打ち合うだけ。

原作では、『護衛艦ちょうかい』が、「ハープンミサイルでは敵艦を沈めて多数の死者を出してしまうから」と、敵射程内に入るギリギリのところで主砲で敵兵装をピンポイントで射撃し、無力化する場面が名場面とないっている。

しかし、そのプロットが成り立たせるために、先に敵の早期警戒完成機を撃墜して(これにも12人の兵員が乗っており、殺してしまうことを葛藤するシーンが描かれる)、敵の索敵能力を低下させている前提があってのこと。そのあたりの描写がすっ飛ばされているのが、さっぱりワケがわからない(敵がミサイルを撃ったらオシマイじゃね?)。

柿沼がミサイルで撃墜されるシーンもミサイルを避けるために引き起こしによってブラックアウトするから気を失いそうになるはずなのに、急降下するだけで気を失いそうになっているし、救助した敵兵員が担架から手を伸ばすだけで、銃を奪われる兵士というのもよくわからない(救護員って艦内で銃を持っているものなのだろうか?)。

コンビニの場面もそもそも余計だし、「すわ戦争か?」とパニックになった客が押し寄せ、店内が騒然となりすべての食料が売り切れる事態となりバイトが徹夜で働くのに、クリスマス商品の梱包を続ける店長というのも論理的におかしい。

もう、すべてのプロットががガタガタなのに、米ソ中仏英連合の国連軍の潜水艦が最後にあらわれて、直前で自爆する魚雷を撃って戦闘を止めて調停するというヲチにいたっては、ヘソが茶を沸かしそうになる。

よく、こんなセンスで、こんな際どいことをテーマにした映画を作ったなぁ……と妙なところで感心してしまう。

 

F-35BJのカッコ良さを見せることにこだわらなくてどうする!

そして、もっとマニアをがっかりさせるのは、『空母いぶき』も『F-35BJ』もさっぱりカッコよくないってことだろう。

宮崎駿の映画だったら、エルロンやエレベータのドアップが映って、その動きに合わせて機体が動く。そういう描写が微塵もない。舵、ちゃんと動いてたのかなぁ……。CGで、ハリウッドみたいな予算がないのは分かるけど、金だけじゃなくて、愛がない感じがする。

トップガンのオープニングなんて、誘導員の所作だけでカッコいいじゃないですか。F-14が地上で舵を振って動作確認する。誘導員が身をかがめながら、全身の動きで右手を前に振って、それに合わせて蒸気式のカタパルトが重いF-14を射出する。離陸してから、F-14はその重みで甲板先端から一瞬下がって、そこから大パワーで、機体を持ち上げて行く。甲板上にはカタパルトが動作することで漏れる蒸気が漂う……。あのトップガンのカッコ良さ!

そんな、カッコ良さが微塵もない!

いやね。トップガンが海軍全面協力だったのに対して、本作は自衛隊の協力は得ていない(得ようともしなかったらしいが)というのはわかる。だから、映像として迫力が出にくいのはわかる。

でも、メインの武装は、みんな大好き、変形合体ロボットみたいなF-35Bですよ!

離陸する時だって、リフトファンのカバーを開いて、キャノピーの後ろから下向きに風を吹き出しつつ、メインエンジンの吹き出し口も斜め下方に向けて離陸するんですよ! それがかっこ良くって、F-35Bがヘリ空母に登載されるっていうのが、話題になっているのに、何も意味わかってないな!

F-35Bなら、艦に戻る時に、垂直着陸できるんだぞ! そこを描かなくてどうする! そうでなくても、アレスティングフックを下ろしての着艦が見たいだろ! なぜ、そこをカッコよく描かない!(もしかしたら、描かれてたのか? あまりにフツーで記憶に残ってないのか?)

もうね。航空機ファンのため息聞こえそうですよ。

 

西島秀俊と佐々木内蔵助の演技はいい

とはいえ、俳優さんの演技はいい。

かわぐちかいじキャラならではの謎めいた秋津艦長を西島秀俊はよく演じてるし、佐々木内蔵助の熱さもそれを良く引き立てた。潜水艦はやしおの艦長を演じる高島政宏も迫力あったし、いそかぜ艦長の「いてまぇ!」っていう関西弁の命令もまぁ、面白かった(現実には許されないだろうけど)。

脇を固める俳優さんも実力派ぞろいで(一部若い女性除く)、演技を見るのは楽しい。

いろいろツッコミどころ満載で、文句たらたらになってしまう映画だけど、ツッコむために見るというのもまた一興かと存じます。

その際、原作を読んでから見ると、ツッコミも冴えるかと存じますので、大急ぎで原作を読破して映画館に足を運ばれることをお勧めします。