ロッキー8作目……というと、「まだやってたの!?」と驚く人もいるかもしれないが、最近2作のロッキーシリーズは定番のパターンを上手に辿るようになっていて、けっこう面白い。

そして、本作がシルベスタ・スタローンが出る最後のロッキーシリーズだと、スタローンは言っている。

我々の世代は、スターウォーズ、ガンダム、ターミネータ、エイリアン、スーパーマン、スパイダーマン、ロッキーなど、若い頃に見た映画の続編を延々と見られる人類史上初めての世代だ。

若い頃の楽しみを継続できてうれしいが、出演者たちの『老い』を目の当たりにすることもある。続編映画には傑作も駄作もある。いかにも商業上の理由で造られたんだろうなぁ……と思う作品もある。

さて、そもそもロッキーは売れない俳優だったシルベスタ・スタローンが、自分で書いた脚本を持ち込んで、他の俳優で造ると言われたのを無理やり意地を通して、自ら主演したというB級映画だ。

そのB級映画が思わぬ大ヒットを勝ち取り、スターダムを駆け上がるという、どこか劇中のロッキーの栄光への道と、現実のシルベスタ・スタローンの栄光への道がカブる部分がある。ちょっと口下手で、でも自分の意地をどこまでも貫き通す部分もきっと同じなのだろう。

そういう意味ではロッキーの続編は、やはり現実のシルベスタ・スタローンの老いとの戦いでもあった。他の映画と違って、ロッキーは他人が演じるわけにはいかないし、特殊メイクというわけにもいかない。

我々の世代にとって、ロッキーはやはり青春の一コマだ。

どんな人だって、あのロッキーのテーマ曲が鳴り響いたら、どんなにへこたれてたって必ず立ち上がるし、挫けずにベンチプレスを続けるし、冷凍庫の中にいたらぶら下がった牛肉を叩くし、もしそれが階段の途中だったら頂上まで駆け上がって「エイドリア~ン!」と叫んでしまうに違いない。

最初のロッキーは、やっぱり僕らの世代にとって、インパクトの大きな映画だったのだ。

では、最後の第8作はどんな映画になっていただろう。

『クリードII・炎の宿敵』というロッキーシリーズ最終作は、『老い』『人生上り調子の表舞台からどうやって降りるか』という、僕らの人生の問題を上手に表現していた。

(以下多少のネタバレを含みます)

まずは過去7作の復習

さて、では第8作クリードIIの話に入る前に、これまでの7作をサラリと振り返ろう。

第1作。ヘビー級チャンピオン、アポロ・クリード(そう最新2作の主人公は彼の息子なのだ)と対戦する無名のかませ犬として登場するのがロッキー。ペットショップに勤めるそれほど美人でもない女性エイドリアンに思いを打ち明けられないほど不器用な男が、鍛練を積み、大方の予想を覆し、大接戦を繰り広げるのが大きな共感を呼ぶ。本作では結局負けるのだけど。

第2作は、アポロと再戦し、ついにチャンピオンになるまで。

第3作は、10度の防衛に成功し、向かうところ敵なしの状態から始まる。有頂天、傲慢になったロッキーが、新進気鋭のボクサーに2ラウンドで敗れ、初心に返りハングリー精神を取り戻し、勝つまで。

第4作は直接本作と繋がる話。ロシア人ボクサー、ドラゴとの戦い。冒頭、ドラゴの挑戦を受けたアポロ・クリードは試合中に殺されてしまう。ロッキーはドラゴと戦い、最後にはボロボロになりがなら勝つ。

第5作では、ついにロッキーは引退。トミー・ガンという若いボクサーを見つけ、コーチとして育成に根注するが、それが元で息子とは不仲に。一方トミーは富と名声に惹かれロッキーとたもとを分かち、最終的にストリート・ファイトでロッキーと対決という展開。そしてロッキーが勝つ。老害が、若手の出る杭を打つ話で、どうなんだっていう気もする。

第6作では、年老いたロッキーはイタリアンレストランを経営して、すでにエイドリアンもガンで他界しており(なぜ、そういう設定になったんだろう……)、うらぶれている。そこに現役チャンピオンから挑戦が。年老いてるのに、頑張ってトレーニング。善戦したが最終的には僅差で負ける。

実は、5作、6作はどうかと思う。40歳、50歳の男がトレーニングしたって、若手のチャンピオンに勝つって、どうしたって無理がある。むしろ、「ワシの若い頃はな」っていうオッサンの醜い夢みたいになっていたのだ。ロッキーもやめればいいのに……そんな感じになっていた。ちなみにロッキー5の44歳はまだしも、ロッキー5の時にはなんと60歳だ!

それが、第7作(正確にはスピンオフ作品、タイトルは『クリード・チャンプを継ぐ男』であり、『ロッキー』ではない)になって、がぜん面白くなる。

ロッキーは第1作、第2作で戦った宿命のライバル、4作でドラゴに殺されたアポロ・クリードの息子、アドニス・クリードのコーチとしてアドニスを導き、教えを垂れ、導く側に立つ。自分の老いを認め、人生の成功者ではないことを認め、更新を導く姿は、老いた『シルベスタ・スタローン』の新たなハマり役になったと思う。

黄金パターンをキッチリやり切る魅力

で、本作『クリードII・炎の宿敵』である。

ロッキーシリーズの黄金パターンは、うらぶれた(もしくはおごって)ダメになった状態があり、1戦して敗北(それが本人であれ、だれであれ)し、鍛練を積み(もちろん、ロッキーのテーマが流れる)、そして試合のゴングが鳴り、熱戦となる(勝つ場合も、負ける場合もあるが、最後には勝敗は問題じゃないという気分になる)……というもの。

もちろん、本作もそのパターンを継ぐのだが、ストーリー展開も巧みで、黄金パターンに乗せられるのが楽しい。

アドニスの妻の妊娠(つまり自分もアポロと同じく妻と子供を残して死ぬ可能性がある)、5以来不仲なロッキーの息子との関係など、いろんな人間模様もあって面白い。

ドラゴ親子のトレーニングも、ロッキーとアドニスのトレーニングもどちらも前時代的根性論なのはどうかと思うが(今は適切な水分と栄養をとって、適切なトレーニングするでしょ!)、まぁそこは『ロッキー』ですからね。

以降はぜひ、映画館でお楽しみを。

それにしても、シルベスタ・スタローン72歳ドルフ・ラングレン61歳という姿で、ロッキーシリーズの最後を見ることになるとは、思わなかったなぁ。