彼女たちはアイドル界における福音かもしれません。

「アイドルとは、かくあるべし」という世間が考える偶像に縛られることなく、自由奔放に己の世界観を発揮した結果、今や業界で最も勢いがあるグループとなりました。

彼女たちの名は「BiSH」。

2018年には、必ずやこの名を頻繁に聞くことになるでしょう。

センセーショナルな異端児のDNA

BiSHは現在6人組で結成は2015年。アイドル界に衝撃を与え熱狂的な支持を獲得したアイドルグループ「BiS」の仕掛け人である渡辺淳之介氏が、「BiSをもう一度始める」としてスタートしました。

BiSは奇抜なパフォーマンスで知られるグループであり、1stシングル「My Ixxx」のMVはメンバーが全裸で樹海を走り回るという今思っても突拍子もない内容。

そのほか24時間耐久ライブやハグ会など、そのセンセーショナルなパフォーマンスには枚挙にいとまがありません。

BiSHはそんなBiSの遺伝子を間違いなく継承していると言えるでしょう。しかし、ただの「2代目BiS」ではないのです。(なお、BiSは現在第2期として再始動しています)

「Brand-new idol SHiT」(新生クソアイドル)というキャッチフレーズでスタートし、avex traxとの契約時に「楽器を持たないパンクパンド」に改めたBiSH。

その意味は楽曲を聞けば、一瞬にして納得できるはず。

強烈な6つの個性の結集

6つの強烈な個性がぶつかり合い、混ざり合い、愛し合って生まれたのがBiSHです。

BiSHの楽曲において重要なファクターを担うのが、オリジナルメンバーであるアイナ・ジ・エンド。担当は、「おくりびと」。

私は彼女の歌を初めて聞いた時、泣いてしまいました。悲しいとか感動したとか具体的な感情の発露というよりかは、気づけば魂を鷲掴みにされていたという感じでしょうか。

その歌声は驚くほどハスキー、パワフル。命を削る音が彼女の声。

表現することが大好きだった彼女が、最後のチャンスとして受けたのがBiSHのオーディション。そこで自作の歌を長々と披露し、前述の渡辺氏には苦々しく思われたものの「この子に衣装を着せたい」と衣装さんに拾われた形で合格したというユニークなエピソードを持っています。

お金がなく公園で寝泊まりしていたこともあると語るアイナは、「新生クソアイドル」でありパンクでありながらも、誰よりも歌い踊りパフォーマンスできることに感謝し真摯に取り組んでいるように映ります。

なお、グループの振り付けは彼女の担当。

同じくオリジナルメンバーのモモコグミカンパニーは、「あまのじゃく」担当。

可愛いらしいルックスとは裏腹に、BiSのことも知らずオーディションは受けたものの、普通のアイドルだったら入る気はなかったと公言する。アイドルへのあこがれも無かったと断言する強気なスタイルや、BiSへの対抗心を隠さないあたりはパンクアイドルの面目躍如でしょうか。

ダンスも歌も苦手、握手会も嫌だったという彼女ですが、実は見てくれているファンのことを思いやり、元気になってくれたらいいと必死に頑張る姿は、まさにアイドル。

渡辺氏をもってして「モモコを入れたらグループが上手くいくのが想像できた」という存在です。

メンバーが作詞することが多いBiSHの楽曲において、彼女が作詞したものが最多。とにかく言葉を愛するのがモモコグミカンパニー。

中でも「Nothing.」はポジティブさに満ち溢れた名曲です。

セントチヒロ・チッチは、番組やライブではMCを任される人物。

アイナとは対照的な透明感のある歌唱で、楽曲を支えるオリジナルメンバーであり、元々は王道アイドルグループで活動していました。

「今は自分のやりたいことをやっている」と話す彼女の一挙手一投足が、ファンに大きな影響を与えていることは言うまでもありません。

王道アイドルから破天荒なパンクアイドルへと転身したチッチですが、そのアイドル性はまさに小悪魔。

表情だとか声だとか、しゃべりだとかがとにかくアイドル。

ダイエット企画に失敗するという挫折から、自身に大きなパラダイムシフトがあったことを話す彼女は甘えや後ろ向きな感情を越えて強烈な個性を発揮しています。

なお、担当は「見た目は真面目、中身は悪女 これでも彼氏は2人まで」。

ライブでのダイブも厭わず、シャウトで観客の度肝の抜くリンリンは、驚くべきことに「無口」担当。

サウンドプロデューサーの松隈ケンタ氏曰く、彼女の歌は「ギターソロ」扱いなんだとか。

アイドルにおいて闇っぽさを感じる子は少なくありませんが、リンリンは別格。尊敬を込めて私はBiSHの「狂気」担当だと思っています。

そしてメイク、ファッション、ヘアスタイルのオリジナリティも別格。同性からの支持を集めているのも納得できますね。

元気がない時に、この世の終わりみたいな空気感の歌詞を書くストレートさも魅力です。「ファーストキッチンマイライフ」という楽曲では、その思いを感じられます。

「メガネ」担当のハシヤスメ・アツコは、強烈な個の集合体であるBiSHにおいても異質の存在。2期生として加入でした。

黒髪ロングで正統派美人といったルックスの彼女ですが、実は一番のカオス。合格連絡の際、渡辺氏が「清水寺の舞台から飛び降りる気持ちで合格です」と伝えたというから驚きです。

良くも悪くも空気を読めないという彼女は、ライブの定番であるミニコントでも中心人物。とはいえ、本人はいたって真面目な人物のようで、だからこその噛み合わなさが面白い。個性派揃いのBiSHにおいて、ハシヤスメ・アツコは別方向にトリッキーなのです。

なお、メガネをとるとクビだそうです。

加入してから最も日が浅いのが、アユニ・D

「僕の妹がこんなに可愛いわけがない」担当という通り、純真可憐で妹系のルックスは、もはやなんでも許せるレベル。

歌もパフォーマンスも発展途上と言われていたのも今は昔で、サビ前の大事なパートをソロで任されるなど、不安定ながらも切実さが滲み出る歌声や仕草はBiSHの欠かせないパーツとなっています。

途中あった1ヶ月の活動休止期間にボイトレやダンスレッスンに通うなどの研鑽を怠らず成長し、コミュニケーション下手な彼女がそれでも観客に気持ちを伝えようとする姿は、ただアイドルってのは明るくキラキラしているだけじゃないんだぜっていう必死さがあります。

BiSHについてはメンバーの人となりやグループそのものを掘り下げる記事がWeb上で多く公開されていますので、ぜひ読まれることをオススメします。

圧倒的な楽曲の素晴らしさ

「楽器を持たないパンクバンド」と呼ばれるBiSHの楽曲には、疾走感と激しさ、切なさが満ち溢れています。

全曲を手がけているのは、サウンドプロデューサーの松隈ケンタ氏。BiSHを語る上で、メンバー、渡辺淳之介氏の他にこの松隈ケンタ氏の存在を忘れることはできません。

BiSHの楽曲には多くの人がイメージする「アイドルっぽさ」からかけ離れたサウンドが多いのですが、一方でBiSHの姿を見たことがないを人をサウンドだけで魅了していると言う側面があります。

個人的な観測だと、ロックやヘビメタ、パンクにどっぷりハマっていた世代が「BiSH、カッコイイ!」となっているケースが多く見受けられます。私の周囲の諸先輩たちは続々とハマっていますよ!

ただパンク一辺倒ではないのがBiSHの特徴。激しいパンクから、ちゃんと売れそうな曲まで幅広くこなすのは、したたかな戦略と感嘆せざるを得ませんね。

メジャーデビュー曲「DEADMAN」は99秒に凝縮されたパンクロック。そこで「売れたい」と絶叫した彼女たちは、「オーケストラ」「プロミスザスター」と次々に代表曲を世に放ちながらステップアップしていきます。

パンクっぽさで言うとオススメはこの「GiANT KiLLERS」や「MONSTERS」でしょう。

「オーケストラ」はBiSHを象徴する名曲。

そして、「BiSH-星が瞬く夜に-」は会場を一体化させる神曲です。

そして、最新アルバムからはこちら。

幕張メッセで7000人規模のワンマンライブを成功させ、ミュージックステーションにも出てしまうBiSHは、さすがに売れていると言っていいアイドルでしょう。

そしてここまでの高みに至ったのは、奇跡的な確率でチャンスをもぎ取ってきたからこそだと思います。

けっしてエリートでも優等生でもなかった6つの強力な個性がせめぎあい、ぶつかりあい、擦れ合って飛び散る火花、熱量、輝き。そこに松隈氏による素晴らしい楽曲。渡辺氏によるプロデュース、仕掛けはBiSで築き上げてきた話題性に加えて、これまでのアイドル界における成功事例をうまくアレンジしたもの。

この三位一体が、BiSHというアイドルを唯一無二にして、ちゃんと売れているアイドルたらしめているのでしょう。

あと最後に、プロデューサーである渡辺淳之介氏とメンバー6人にしっかりとした信頼感が構築されていることが素晴らしいんです。

渡辺氏は6人を愛し、育て、引っ張り、6人は渡辺氏を信じ自らの確固たる意志を示しながらついていく。そんなBiSHだからこそ、「清掃員」は何の憂いもなくBiSHを愛し、応援することができる。

「クソアイドル」と自身を呼称したBiSHが、名実ともに汚物に塗れながら、もがき苦しみながらも成長し、人々を魅了している姿は、実はド直球にスーパーアイドルじゃないですかね?

プレイリスト

BiSH – LINE MUSIC

Twitter

BiSHオフィシャル(@BiSHidol)さん | Twitter