洗練された京町屋。祇園の街並みを歩く舞妓さん。細工の限りを尽くした懐石料理。……京都といえば、そういうイメージを持つ人も多いと思うが、そのイメージは観光用に作られたモノ……という側面もなくはない。

周辺は昔ながらの田舎町だし、古い都市ゆえいろいろと『濃い』部分もある。変わった人もけっこういるし、それを許容しているのも『京都』という都市が持つ特徴のひとつではある。

というわけで、今回は、格安で美味い獣肉の料理が食べられる特徴的な店をご紹介しよう。京都のはるか南部、綴喜郡井手町にある『梅本商店』という店が、その超穴場スポットだ。


京都府の南部。奈良にほど近い山そばにその店はある。

あんまり一般の人が行くところではないが、お茶で有名な宇治よりさらに南。木津川を渡れば同志社大学の田辺キャンパス(東京でいうところの、八王子キャンパスのようなもの)。公共交通機関で行くなら、JR京都駅から、奈良線で40分弱の山城青谷駅から徒歩10分ぐらいだろうか。田舎ではあるが、交通の便はそれほど悪くない。

ワイルドな『肉』感。臭みも脂っぽさもない

最初に言っておくと、猪ラーメンと鹿ラーメンを食べた。そして、どちらもけっこう美味かった。


こちら、『二代目猪肉ラーメン』450円。安い。

450円という価格からは信じられないほど、猪の肉がいっぱい入ってる。『獣肉』というと個性的な香りとか味をイメージしてしまうが、臭みもクセもまったくなく、一般の豚肉のように脂っぽくもない。しっかり、たんぱく質のある『肉!』という感じのしっかりとした歯ごたえのある肉だ。これは美味い。

上手に血抜きをして処理をすれば、こういう洗練された味になるのだそうだ。

ちなみにラーメンには、『初代』もあり300円なのだが、『二代目』の方が美味いそうなのでこちらにした。

続いて、こちらが『二代目鹿肉ラーメン』450円。こちらも美味い。


こちらの方が少し、繊維質がしっかりして噛みごたえがある感じだが、しっかりとした『肉』感があるのは同じ。もちろん、こちらも臭みがなく美味しい。


これが450円で食べられるなんて信じられない。

が、ここまで到達するには、少々高い敷居がある。

店は新聞販売店、大将は元クレー射撃オリンピック候補

現場に到着して、ちょっとビビるのは、なんというか……ちょっと、店が店らしならぬ……っていうか、あまり飲食店に見えるビジュアルではないということ。ここで、獣肉を食べるというのは、正直少し勇気がいる。


なんか、店の前にはゴミ……らしきものが積み重なっている。


大丈夫なのか……(汗)


しかし、立て掛けられたすだれに書いてあるメニューを見ると、どうやらここがお目当ての格安で新鮮な獣料理を食べさせてくれる店らしい。


勇をふるって、店に入ろうとすると、店の前に座っている親父が。どうやらこの店の『大将』らしい。


「マムシさばいとるんや。小骨がぎょうさんあるから。こうやって、包丁の背でマメに叩いたらなあかんねん」と大将。


聞けば、家業としての本業は新聞販売店なのだそうだ。だから、お店は正月以外はほぼ年中無休。

元々は、オリンピックの候補にもなったクレー射撃の選手だったそうだ。しかし、交通事故で、追突され、両手を負傷。選手としての道が断たれたので、猟師として獣を撃つようになったとのこと。

今、日本では獣害が深刻になっているのはご存知だろうか? 元々建材としての常緑針葉樹の植林とその後の放置(外材に負けたので伐採しなくなったらしい)により、鹿や猪が人の生活圏に近い広葉樹林に降りてきているそうだ。それらの動物による農作物の被害はかなり深刻。そんなわけで、狩猟のニーズは高いそうなのだが、猟師は高齢化し、むしろ減っている。

大将は自分で、山に入り、狩りをし、さばいて、料理しているとのこと。最初は狩猟から調理まで一気に行うということで、飲食店としての許可が降りず難儀したが、クレー射撃時代の人脈から、クレー射撃協会会長の麻生太郎大臣のところに話が行き、許可が降りたとかなんとか……。

大将の話は、なかなかに奇想天外で、どこまで本当なのかしらんと思ってしまうが、このワイルドな感じの店内で、獣肉を食べながら話を聞いていると、さもありなん……と思えてくる雰囲気はある。

もっとワイルドな料理もある!

基本コンセプトは大将が山で獲ってきた獣肉を料理して出すということになるので、料理はラーメンだけではない。

猪肉チャーハン 350円
ぼたん鍋 1650円(1人前)
鹿肉のしゃぶしゃぶ 1650円(1人前)
ラスカル鍋(アライグマ鍋) 2500円(1人前)
マムシのバターソテー 1匹1万円、1切れ1000円
猪・鹿肉直売 6000円/kg(要予約)

そして、びっくりだったのが、猪の不老長寿鍋。1万円。
猪の胎児を鍋にしたもので、胎児がそのままのカタチで入っている。コラーゲンがたっぷりで中国では不老長寿の鍋と言われていたそうだ。が、ちょっとビジュアル的に、私は受け付けませんでした。ただ、大将によると、猟で撃った猪に入ってるものなので、これも食べた方がむくわれるというものとのこと。

店内の散らかり感といい、メニューといい、ちょっと色々ワイルド過ぎる感のあるお店だが、二代目猪肉ラーメン、二代目鹿肉ラーメンが、想像以上に美味しかったことは確か。また、肉だけ買って、自宅でジビエ焼き肉なんていうのも素敵かも。

野生で生きてきた獣の鍛え抜かれた、余分な脂肪のない肉は、身動きできないような狭い飼育設備の中で育てられた家畜である牛肉や、豚肉とはちょっと違った美味さがある。

サイトから通販で買えるようなので、興味のある方は、ぜひ。