『君の膵臓をたべたい』……とはまた猟奇的なタイトルの映画だな……と思ったら、そうではなかった。ラノベというか、若者向けの小説を原作した映画だという。ちなみに、『キミスイ』と略すそうだ。
ヒロインは膵臓に病を抱えた余命1年の美少女……というと、いかにも過ぎて、アラフィフのオッサンである私にはキツイかな? と思いきや、最後には感動に涙して、小説版も、コミックス版も全部読んでしまった。してやられてしまったのである。
それから、浜辺美波がかわいい。
当たり前の日常の大切さと、心開く物語
まず、ザックリ言うと、主人公【僕】はクラスの地味な男の子。彼が、たまたまヒロインの落とした日記『共病文庫』を読んでしまい、それにより彼女が膵臓の病に侵されていて、余命1年であることを知る。人とあまり関わりたくない【僕】だが、ヒロインの『秘密を共有する仲』として、振り回されつつ、心惹かれていく……というのがあらすじ。
ストーリーが12年後の【僕】(これを小栗旬が演じる)の視点から語られるのが、小説版、コミックス版と違うところ。
もちろん、オッサンにとってはちょっと設定的に甘いところは気になる。余命1年と分かっていて元気に旅行とか行ける病気って何だろう? 高校生が恋愛でも友情でもない領域をそんなに固持して進めないぞとか。まぁいろいろある。
が、それでも、魅力を感じるテーマがこの物語にはある。まぁ、世の中には泣けないと憤慨してるオジサンもいる(映画『君の膵臓を食べたい』が全く泣けない理由【ネタバレ注意】)。まぁ、そういうものではある。
桜良とスティーブ・ジョブズの意見の違い
ひとつは、限られた『余命』をどう生きるかというテーマだ。
アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズは『今日が自分の人生最後の日なら、どうするか?』を考えて生きろと言った。
つまり、漫然と生きずに、為すべきこと、価値あることをしろ……ということだ。
しかし、ヒロイン山内桜良(浜辺美波)の選択は違う。彼女は家族以外の周囲に病のことを隠し、『普通に対応してくれる』【僕】のもたらしてくれる『あたり前の日常』を過ごそうとする。
そう、親しい人を亡くしたり、怪我をしたりすると気がつくが『当たり前の日常』にこそ価値があるのだ。昇進するとや、大儲けすることより、家族や友人と笑い合う日常、今日と同じように続く日常にこそ価値がある。
忘れがちなこの事実を、この映画は教えてくれるのだ。
映画では見えにくい『実は成長の物語』
もうひとつのテーマは、まったく人とコミュニケーションを取らなかった【僕】が、桜良とかかわることによって『生きるというのは、誰かと心を通わせることだ』と学び、桜良と同じように『人と関わって生きて行く人になりたい』と望み、桜良のようになりたいと思い『君の膵臓をたべたい』と思うのだ。
つまり、【僕】が心開く成長の物語である。
この2つのテーマが、この萌え萌えな若者向けの物語を、アラフィフのオッサンの楽しめるものにしてくれている。
シーンを描く映画と、表情のコミックス、思惑の小説
映画と、小説と、コミックスの構造の違い、楽しめる場所の違いもいろいろと面白い。
一番、カタチが違うのは映画版だ。小栗旬が【僕】を演じ、【親友さん】を北川景子が演じる12年後の世界から、ストーリーが語られる。
おそらく比較的独白が多いこの物語を、客観的に描くにはそういう手法が便利だったのだろう。また、高校生の青春モノを大人の目線から描くことで、対象年齢層を広げることもできる。事実、私も登場人物が高校生だけだったら見なかったかもしれない。
しかし、この視点を作ったことで、【僕】の成長が12年後まで『おあずけ』になってしまい、成長物語としてのテーマが薄れてしまったのが残念なポイント。
小説版とコミックス版では、周囲と没交渉で生きる【僕】が、『君の膵臓をたべたい』とまで桜良の美点を見つめることで、成長し、【親友さん】と慣れないながらも友達になろうとするのに、映画版は桜良の死を経てさえ【僕】はボンヤリと成長し、30歳近い大人になってしまっている。
が、映画版の美点もある。
桜は美しく、博多のホテルに泊まって『真実か挑戦か』ゲームをする時の萌え萌えなドキドキ感は映像ならではだ。浜辺美波もかわいい。
コミックス版は少し、絵柄が推さないのが気にかかった。高校生ってもっと大人かと。映画版は【僕】がイケメン過ぎる。他人に興味ない男の子は、あんなカッコよくなれない(笑)
映画、小説、コミックスで魅力的なシーンは違う
映画、小説、コミックスを較べた時に、一番惹かれるシーンが違うのも興味深い。
映画版は、やはり博多のホテルに二人で泊まって『真実か挑戦か』ゲームをする時が青春ものっぽくていい。
コミックスは最後に病室で語らってるシーン。『心配しているのに』と叫ぶ【僕】に、桜良が『いやぁ、君がまさか私をそこまで必要としているなんて』ニヘラニヘラ笑いながら言うシーンがいい。
そして、小説版は核心の部分、最後の真実か挑戦で、桜良が『生きるってのはね……きっと誰かを心を通わせること。』というシーンがいい。ここは前後の文脈もあるので、ぜひ小説版で読んでいただきたいポイントだ。
そう考えると、『シーンを描ける映画』『表情の表現力があるコミックス』『思惑を書きやすい小説』の、それぞれの特性がよく出ているのかもしれない。
私の一番のオススメは小説だ。
でも、映画も良くできてる。そして、『膵臓をたべたい』と願うほど大切な人との『あたり前の日常』を大切に生きて欲しい。
あと、浜辺美波がかわいい。
追記:原作者はあまり映画版を好きではないという情報もあるにはある(原作破壊!? 映画版のアンチと化した「キミスイ」著者)。まぁ、よくある話ではあるし、ホントかどうかは分からないが。