ジョニー・デップの軽妙な演技が楽しい『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズも早くも5作目。

といっても最初の8年間の間に4作目までが公開されてから、こんどの5作目までは6年ほど時間が開いたので、ファンにとっては待望の……という作品になるだろう。

私自身は全作を映画館で見てはいる。だけど、ディズニーランドのアトラクションそのままの、スピード感あるドタバタ喜劇を楽しんでいただけで、物語を詳しく覚えてなかったので、この5作目で出てくる過去の因縁の方々がわからなくて、ちょっと混乱してしまった(笑)

(以下、多少のネタバレを含みます)

過去の登場人物をおさらいしてから行こう

そもそも、海賊といえばヒゲの酒飲み、大男。場合によっちゃ片足が義足、片手は鉤爪……っていうのがステレオタイプ。そこに、ちょっとオカマっぽいしぐさと、正義の味方なんだか、悪者なんだかわからない気まぐれな新時代の海賊像をジョニー・デップが作り上げたところが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ人気の理由のひとつだろう。

今回の5作目は、過去のシリーズに出てきたキャラクターがいろいろと登場する。それが誰か、一応理解していると話がさらに面白くなるので、おさらいしておこう。

まず、今回のストーリーの軸となるのが、青年ヘンリー・ターナー。冒頭、12歳で、そして本題が始まってからは21歳の青年として登場する。彼の両親が、1作目から3作目まで出ていたウィル・ターナー(指輪物語のレゴラス役だったオーランド・ブルーム)とエリザベス・スワン。つまり、1〜3作目の話の中心となったふたりの息子が青年となって話を転がしていく。ちなみに、ウィル・ターナーは3作目の最後で呪われた幽霊船(フライング・ダッチマン号)に捕われて海底にいるまま、4作目の間は放置されていた(笑)

敵役であるヘクター・バルボッサも変遷を経ながらまた登場。例によって何もかも失い、船さえもないシーンの多いキャプテン(笑)ジャック・スパロウに対して、バルボッサは成功した金持ちの海賊として登場する。また、もうひとつ、彼には重要な役割があるのだが、それは映画を見てのお楽しみということで。

さらに、新たな敵役として、サラザールという沈んだスペイン船の船長が亡霊として出てくる。ジャック・スパロウの手下の海賊たちもおなじみの連中が登場する。このあたり、ちょっと整理しておかないと、船員はもちろん、船長と幽霊船と亡霊とか、海の底から蘇ってくる人とか、同じような連中がいっぱいいるから混乱してしまう。理想的には、全作をDVDで見返して、それぞれのキャラクターを把握すればもっと楽しめるだろう。……そんなことしなくても楽しめる映画ではあるけど。

そもそも、カリブの海賊って何?

実はルーツはアトラクション

実はこのシリーズ、ルーツはディズニーランドにあるアトラクション。本家、アナハイムにあるディズニーランドに60年代に作られたアトラクションを元にして、現代的な風味をいろいろ混ぜ合わせて作り上げたもの。アニメや絵本がルーツではなく、アトラクション自体がルーツなのだ。

アメリカが出来る前、新大陸を植民地化する時代に実在した海賊達

カリブの海賊といえば、西部劇と同じく、アメリカという国が生まれる前後の物語。現実には17〜18世紀あたりに存在していた。西部劇はアメリカが18世紀末に独立してからの19世紀の話なので、海賊譚の方が古いお話。日本人にとっては縁遠いが、中米の大西洋側カリブ海での出来事だ。日本は江戸時代前半あたり。

コロンブスがアメリカ大陸を発見したのが、15世紀。そこからしばらくは新大陸に渡ること自体が冒険だった時代を経て、スペイン、オランダ、フランス、イギリスなどが先を争って大西洋を渡る航路を開き、南北アメリカに植民地を作ろうとしていた。当時それらの国々はヨーロッパでも争っており、カリブ海でも当然紛争状態となり、中南米の金山、銀山で掘り出された金銀や、特産品を輸送するスペインの船をフランスやイギリスやオランダの船が国家公認で襲ったりもしていた。その国家公認の襲撃行為が国家から離れて独自に行うようになって、独自に戦闘、略奪を行う集団が生まれていった。それが、アメリカの国産みの物語の前に存在する海賊譚の元になっているわけだ。

『男は殺して、女は犯せ』が、忖度されて……

そもそも暴力と略奪の話である。アメリカ先住民を人と思わず虐殺していく話でもある。新大陸の植民地を切り開くためにアフリカから黒人奴隷を連れてきて奴隷貿易をしていた時代で、冷静にひも解くとひどい話しかない。その危険で、劣悪な時代が、スティーブンソンの『宝島』はじめ、伝説的な冒険譚の舞台となったわけだ。

元々の海賊は当然ながら『男は殺して、女は犯せ』だった。本家のディズニーのアトラクションでも、女性が人身売買される場面があったが、『性差別的で、子供にこんなものは見せられない』ということで、改変されることになったらしい。なんでもソフィスティケートされる時代なんである。

映画の『パイレーツ・オブ・カリビアン』もそういう配慮は随所に行き渡っており、当然のことながら(良くも悪くも)安心して見られる作品になっている。思えば、戦う相手が本来存在しない幽霊船や呪いわれたゾンビが相手になるのも、人を殺すシーンより幽霊やゾンビを倒すシーンの方が『子供が安心して見られるから』だろう。スターウォーズも、バトルドロイドや顔の見えないクローン兵ばかりが敵として吹き飛ばされるようになっている。安心して見られる『忖度』されたエンターテイメントが増えていくのは、いいのか悪いのか……。

ともあれ、今作『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』が一級品のエンターテイメントであることに変わりはない。1〜3作の伏線もいろいろ回収されるし、エンターテイメントに飛んだシーンも、感動的なシーンも、スペクタクルな映像技術を駆使したシーンもてんこ盛りだ。

夏の暑い日、涼しい映画館で痛快なエンターテイメントを安心して見たいとなれば、この夏のイチ押しと言える作品だ。