我が家はミニオン達の大ファンだ。今回公開された『ミニオンズ フィーバー』は、『怪盗グルー』シリーズ(原題はDespicable Me=意地悪な俺様)としてカウントすると5作目。ミニオンズシリーズとして見ると、2作目になる。

ちなみに、原題は『Minions: The Rise of Gru』となっている。スターウォーズ第9作の『STAR WARS: The Rise of Skywarker』をもじったようだが、よく使われる言葉なので、源流はもっと古いのかもしれない。奇妙な邦題というのはよくあるが、『ミニオンズ フィーバー』は『Minions: The Rise of Gru』より内容を良く表わしていると思う。

今回は因縁の作品で、そもそもは2020年7月3日公開予定だったのに、例の感染症のおかげで2度も延期され、なんと公開されるまで2年もかかってしまった。最初に予告編を見てから2年もかかってるのだから、ファンにとっては本当に待ちわびた映画だ。

『ミニオンズ フィーバー』というタイトルが内容を良く表わしていると書いたが、その通り、この映画は’70年代のアメリカテイストたっぷりで、特にさまざまな映画のパロディが埋め込まれている

子供向けの映画だと捉えるのは一面的で、’70年代を知る大人が見ると「おお! 懐かしい!」とか思える要素がいっぱい盛り込まれている。それらをひも解きながら見るのが大人の楽しみというもので、どこかにそれらがリスト化されたサイトはないか……と思ったがないので、自分で書くことにした。しかし、筆者だけでは全部の要素を拾うことはできないので、ぜひみなさんも他に思うことがあればお教えいただきたい。


(以下ネタバレあり)
(画像はYouTubeに公開されたトレーラー画像からキャプチャした)


まずは、本作が題材にしている’70年代がどういう時代だったかというお話から。

第2次世界大戦の後に続いた高度経済成長、好景気の時代が行き詰まり、ベトナム戦争、黒人の公民権運動、ケネディ大統領の暗殺……などで、陰鬱な雰囲気が漂ったのが’60年代終わり。オイルショックがあり、政治経済的にいえば’70年代は停滞した時代だった。しかし、その停滞はヒッピー、フラワームーブメント、ロックミュージック、ポップアートなど、今に続くポップカルチャーをはぐくんだ時代でもあった。

思えば、スティーブ・ジョブズがブルーボックスを売ったり、導師を求めてインドに行ったり、ガレージでApple Iを作ったりしていた時代も’70年代なわけで、今に続くテクノロジーカルチャーも’70年代に源流がある。つまりは、アメリカの今の大人にとってはとても懐かしい時代なのだ。

 

フィーバーフィーバー!


全編を通じて底流にあるのは、フロアが色とりどりに光って、ミラーボールがキラキラ回るディスコミュージック。当然のことながらモチーフにされているのはジョン・トラボルタ主演の『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年)

当然邦題の『ミニオンズ フィーバー』もここから来ている。『フィーバーする』という和製英語もサタデー・ナイト・フィーバーなのだから上手い邦題だと思う。

リップスのファンキータウンや、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのダンス・トゥ・ザ・ミュージックなど懐かしい音楽のカバー曲が次々とかかる。筆者はサンタナのブラック・マジック・ウーマンを聞くと父の運転するホンダ・クーペ9の助手席に乗って、第2神明を走っていた幼児期の記憶が蘇るのだが、おそらくアメリカの人たちにとってもこれらの曲は、あの時代を思い出させるキーになってるのだと思う。

ちなみに、今回の『ミニオンズ フィーバー』のテーマ曲になっている『Turn Up The Sunshine』は、なんとダイアナ・ロスが、オーストラリアのテーム・インパラと一緒に歌ってる。

今回の悪の首魁であるヴィシャス6のベル・ボトムのモデルになっているのが、ダイアナ・ロスのベルボトム姿であることを考えると、このキャスティングは素晴らしい。

 

古き良き時代の旅客機での旅


ミニオン達が飛行機を操縦してはちゃめちゃな騒ぎを起こすシーンは、筆者の世代としてはレオナルド・デカプリオの『キャッチ・ミー・イフ・ユーキャン』(2002年)あたりを思い出すが、実際にモチーフになっているのは『大空港』(1970年・原題:Airport)だろう。

航空機パニック映画の祖として、その後エアポート’75、’77、’80としてシリーズ化されたし、幼い頃水曜ロードショーなどで見た記憶があるという人も多いのではないだろうか?


キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンにも共通する、パンナムがあった時代のキリリとしたパイロット達と、それを取り巻くようにしゃなりしゃなりとスーツケースを引きながらミニスカートで歩くスチュワーデス(時代的にこう書かざるを得ない)の恰好を真似て飛行機を乗っ取るのがとても面白い。


おそらく’70年代ともなれば、アメリカでは中流階級も飛行機に乗って旅行に行けたのだろう(日本はまだ『夢のハワイ旅行』と言っていたはず)。それでも、飛行機と空港が旅にまつわるワクワクを感じさせてくれていた時代なのだと思う。

サンフランシスコの街並みも再現性が高くて素敵。

 

燃えよ! ミニオン!

後半で大きな部分を占めているのが、ミニオン達がカンフーの師匠マスター・チャウに出会って修業を積むシーンだ。当然のことながら(’80年代のハリウッド映画に日本が登場したように)時代的に大きな市場である中国への配慮でもあるとは思うが、ここでモチーフになっているのは、ブルース・リーの『燃えよドラゴン』(1973年)やジャッキー・チェンの『ドランク・モンキー酔拳』(1977年)などであることは言うまでもない。『少林寺木人拳』(1976年)の木人らしきものも訓練シーンで出てくる。

日本でも「アチョー!」とか言ってカンフーのまね事をする子供がいっぱいいたのは言うまでもないが、当時の事情はアメリカも一緒だったようで、筆者の父などは「アメリカ人は、東洋人がみんなカンフーをすると思ってるから、構えて奇声を発するとビビる」と言っていたから、やっぱり世界的ムーブメントだったのだろう。


考えてみれば、『東洋的なもの』や漢字に対する畏敬などは、カンフー映画から連綿と続いているのだから対大したものだ。初期のスターウォーズの登場人物の東洋人っぽい服装や、剣劇もそうだし、マトリックスの格闘シーン、日本で言えばドラゴンボールや、ストリートファイターなどの格闘ゲームなどの源流は、みんなこの時代のカンフー映画にある。


最終決戦の場面でミニオン達が着る、この横にストライプが入ったスウェットスーツは、言うまでもなくブルース・リーの遺作となった『死亡遊技』(1978年)でブルース・リーが着ていたものをモチーフにしている。

 

Born to be wild !!(ワイルドでいこうw)

そして、今回新登場のオットーがゾディアック・ストーンを持ってサンフランシスコに向かう旅で出会うバイカーとのシーンは言うまでもなくバイク・ロードムービーの金字塔であり、この時代を象徴する映画のひとつである『イージー・ライダー』(1969年)である。

ノーヘルで乗るバイカーに対して、オットーが不細工なジェットへルメットを被っているシーンは、ピーター・フォンダの後ろに弁護士のハンセンが乗っていたシーンを彷彿とさせる。白人であった『キャプテン・アメリカ』が黒人になっているのはダイバーシティに配慮してのことだろうか? このバイカーはオットーと同じく歯に矯正をしている。


ちなみに、このバイク・ロードムービーシーンで、オットーが磨かれたタンクローリーに顔を映して遊ぶシーンがあったが、たしかタンクローリーに写るシーンは『イージー・ライダー』にもあったと思う(確認してないが)。そこまでちゃんとパロディしているのだ。

バイク乗りはついつい、この『磨かれたタンクローリーに映る自分の姿』に見とれるのだが、タンクローリーの尾部は凸面なので、オットーが映るシーンのように大きく映らず、むしろ小さくしか映らない。そのため、なんとか自分の姿を映そうと近づき過ぎてしまい、追突しそうになるのもバイク乗りあるあるだ。

当然のことながらバイク、クルマが登場するシーンにも’70年代テイストは満載だ。オットーが三輪でモトクロスか、ダートトラックのシーンに紛れ込むシーンもそう。アメリカの町の郊外には、鋪装、未舗装を問わず、こういうレーストラックがあり、こういう金属の柵や、三角コーンで区切られたコースで草レースをやっている。ひょんなことから、昔地方飛行場で行われた草レースにメカニック兼取材者として参加したことがあるのだが、まんまこんな雰囲気だった。

また、ベルボトムが乗るバイクはラメラメのフレークが入った紫色に塗られたロケットカウルを付けたカフェレーサーなのだが、これまた当時のアメリカ文化。左右2本ずつのクロームメッキされたマフラーが突き出しているから、モデルになっているのはカワサキの900RS(いわゆるゼッツー)か、CB750なのか。

そういう4気筒バイクにロングタンクを載せ、クリップオンハンドルとバックステップを組み合わせる。そしてロケットカウルで仕上げて、町外れのカフェに乗りつけるから、『カフェレーサー』なのだ。


クルマのシーンでは、シェビーバンや、アストロのようなミニバンが目立った。

シェビーバンやアストロの車高を落として、ワイドなタイヤにしてレーシーなカスタマイズをする、ラメ入りの塗装をする、ネオンカラーで光らせる……なんていう文化はだいぶ後(’90年代)になって日本に入って来た気がする。’70年代といえば、日本はまだサニークーペやCVCCのシビックに乗っていたし、そのあと白いマークIIに乗って、ようやく’90年代も後半になってミニバン文化がやってくる。

そういえば、’90年代にアストロのカスタム本を作っていたエイ出版社の編集長に、日産の人がエルグランドのデザインについて意見を聞きに来たりしていたから、アメリカの’70年代のミニバン文化は、’90年代になって日本に取り込まれたことになる。豊かになった時代が日本はだいぶ遅かったということなのだろうか?

 

みなさんも見つけたら、ぜひ教えて!


登場する映画コンテンツはそれだけではない。グルーが映画を見に行くシーンでは『JAWS/ジョーズ』(1974年)が登場するし、『未知との遭遇』(1977年)のサウンドアイコンが鳴り響く場面もある。

ゾディアックストーンを求めるヴィシャス6の冒険は『インディ・ジョーンズ』(1984年)をモチーフにしているのだろうか? それとももっとルーツになる映画があるのか? 8トラックのカセットテープ、ホッピング、アナログレコード、サイケなファッションなど挙げればキリがない。

ヴィシャス6の5人の乗り物は『チキチキマシン猛レース』(1968年)っぽい。


ワイルドナックルズとグルーが銀行に侵入するシーンも何かモチーフがあるような気がするし、ケビン、スチュワート、ボブの3人をはじめとした多くのミニオンがグルーを探すために、壁に貼った地図の上に写真や資料をピン留めして毛糸を張るシーンも何かを元ネタにしているのだと思う。

まだまだ、こういう場面はあると思うので、発見した方はぜひTwitterなどでお知らせいただきたい。

 

ぜひ、字幕版上映館を増やして欲しい!

というわけで、懐かしの’70年代の宝探しとなっている『ミニオンズ フィーバー』なのだが、ちょっと残念なことがある。ここまで、いろいろ知ってしまうと音声の方も言語を聞きたくなって、字幕版を探したのだが、字幕版を上映している映画館が極端に少ないのだ( https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=NotR1VDg )なんと、現時点で全国で13館しかない。首都圏以外では、ほとんど一地方に1館しかない……。

せっかく大人のハートをくすぐる『フィーバー』というタイトルを付けた日本のマーケターの人は、なぜもっと字幕版を上映してくれないのか?


たしかに、おなじみグルーの笑福亭鶴瓶をはじめ、本作ではワイルド・ナックルズに市村正親、ベル・ボトムに尾野真千子、マスター・チャウに渡辺直美という絶妙な配役を声優として使い、日本独自のプロモーションをしているから、吹き替え版推しなのは分かる。

しかし、字幕版が見たい。我が家から一番近いのは横浜ブルク13。他の地方の方に比べれば近いが……最寄り映画館が徒歩10分であることを考えると、微妙に遠い。ぜひ、字幕版上映館を増やしていただきたい。

(村上タクタ)