これまで、本稿を読んできていただいた方はご存じの通り、私は基本的にはポジティブに考えようと思っている。せっかく映画見たんだし、頑張って作った人がいるんだし、面白いところを見つけて評価しようと思っている。
が、『パンク侍、切られて候』はちょっと、見に行ったことを後悔しちゃった感じ。
っていうか、割と時代劇とか好きなんで、タイトルだけで『面白そう!』とか思って行ってしまったのが失敗。綾野剛もカッコ良さそうだったし。
なにしろ、ストーリーが『『腹ふり党』っていう新興宗教と、猿の軍団の力を借りて戦う』っていう、もう失敗の香りしかしない設定なのに、なんで僕は見に行ってしまったのか。
(以下、多少のネタバレを含みます)
超不条理! 超納得いかない!
その腹ふり党の教義が、世界は人の中の腹の中に巣くうサナダムシの中に存在し、腹を振り続けるとサナダムシの世界から解脱できる……というなんだか良くわからんもの。
綾野剛演じる主人公掛十之進は、その『腹ふり党』の脅威を語って、黒和藩という小藩に士分として取り立ててもらおうとする。勢力争いのために、彼とその話を利用しようとした豊川悦司演じる内藤帯刀は、密偵の江下レの魂次(渋川清彦)に腹ふり党について調べさせる。が、すでにその新興宗教は教義があまりにも下らなくて滅亡し、教祖も死刑になっていたことが分かる。
が、すでに脅威を語っちゃったから仕方なく、半ばアタマがおかしそうな元幹部茶山半郎(浅野忠信)を探し出して力を貸して、もう一度『腹ふり党』を再興しようとする。すると勢い余って大ムーブメントになってしまい、領民の大半が腹を振るようになって、狂乱し、町や城を打ち壊しはじめてしまう。
そこで、困ったと軍議をしていたら、人語を理解する猿(なんと永瀬正敏が演じている)がやってきて、「俺が呼んだら日本中の猿がやってきて戦ってくれる」と言う。で、結局、腹ふり党と猿軍団の一大決戦に雪崩込み、さらにサナダムシから解脱したヤツが、腹を膨らませながら宇宙に吸い込まれてていくという、なんだかもう、不条理がアートだと思った高校生の映研部員が作った8mm映画みたいな展開になっていく。
芸術は爆発だけど、めちゃくちゃすれば芸術かといえば、そんなことはないと思うんだけど……。
トヨエツの無駄遣い! 浅野忠信は新興宗教幹部役、永瀬正敏が猿の役!
それにつけても、その不条理映画に登場している俳優陣が日本を代表する名優なのが泣けてくる。
主人公綾野剛くんもカッコいいし、染谷将太とか、東出昌大、若葉竜也とか、近藤公園とか、若手のホープな俳優もいっぱい出てくる。その上に、豊川悦司もめっちゃ重要な役で出てくるし、明らかにトヨエツの無駄遣い。浅野忠信に到っては顔中に入れ墨した半ば気の振れた『腹ふり党』の元幹部役ですよ。世界の浅野忠信が! これを無駄遣いと言わずして、なんと言う! そして、永瀬正敏に到っては、猿の役ですよ。顔も出てこない! 意味わからない。國村隼とかまで出演してるのに!
そして、我らは北川景子にいたっては、半ば気の振れた『腹ふり党』の元幹部に仕える踊り子役ですよ。ずっと腹ふり踊りを続けてるの。ちょっとヤバい感じがある意味魅力的ではありますが。
もうさっぱり不条理極まりないのだけど、「ここまで言われると、ちょっと見てみたくなる」っていうひねくれた人もいるかもしれない。
実は、私も、映画館を出てきた時は、「なんじゃこりゃぁ! 見に来て失敗した!」と思ってたんだけど、この文章書いてるうちに、もしかしてちょっと面白かったんじゃないかって気がしてきている。
いやいや、そんなことはないハズだけど……ちょっとヤバい中毒性はあるのかもしれない(笑)