我々の世代は、なんと幸せな世代なのだろうと思う。
少年・青年時代にワクワクした、スターウォーズやガンダムは、我々が立派なオッサンになった今なお続編やリメイクが作られ、ゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダー、うる星やつらなども続々とリメイクされる。
そして、その戦列に『トップガン』が加わった。
1986年公開の『トップガン』は、カワサキGPZ900R Ninja、G-1などのミリタリージャケット、レイバンなどの流行を作り出したといってもいいぐらい、様々なトレンドの源流となった。我々の世代には好きな映画にこのトップガンを挙げる人はとても多い。
トム・クルーズをトップスターにした作品であり、ヴァル・キルマー、メグ・ライアン、アンソニー・エドワーズ、ティム・ロビンスなどの出世作ともいる。
その『トップガン』の続編が作られる。しかも、主演は36年を経てなおトム・クルーズが務めるいうのだから、ビックリだ。ヤツは不老不死か!? 実際、今作でもビーチバレーのシーンで、59歳とは思えないマッチョな肉体を披露している。
本記事では趣味人らしく、この映画に登場するバイクと戦闘機について深堀りしていこう。
F−14Aトムキャットと、F/A-18E/Fスーパーホーネット、GPZ900R Ninja(A2)とNinja H2……と韻を踏んだような旧作のイメージの踏襲が実に美しい。
(以下ネタバレあり)
まず、私が特に詳しいバイクの方から行こう。
マーベリックが乗って大人気——GPZ900R Ninja
旧作に出て来たGPZ900R Ninjaはトップガンでトム・クルーズが乗ったことで大人気となった。劇中で使われるのは1985年発売のA2と言われるタイプ。撮影当初の時代を考えると、トムクルーズは、最新型のハイパワーバイクに劇中で乗ってみせたわけだ。
GPZ900R Ninjaは908ccの水冷4気筒エンジンを搭載する。今のバイクに比べると大柄に感じるが、それでも当時のフラッグシップであるGPZ1100よりコンパクトで、乗りこなせるビッグバイクとして登場している。115psを発揮し、最高速は250km/hをマーク。
Ninjaという日本を意識したペットネームは、このGPZ900R Ninjaで初めて採用され大人気を博し、以降カワサキの多くのモデルに採用されることになる。また、GPZ900R Ninja自体も人気で、少しずつ改良を施されながら、2003年発売のA16まで生産された。
ちなみにマーベリックの愛車はアンダーカウルを外してあり、軽快なイメージ。タンクには航空隊のものらしきステッカーが何枚も貼ってある。
このGPZ900R Ninja(A2)は本作にも登場し、トムクルーズが荒れ地を疾走して見せてくれる。彼はノーヘルで走ってるが、こういうアメリカの荒れ地で飛び出して来た鹿にぶつかって転倒したことのある筆者としては、そんなことがあったらどうするんだろう……と心配してしまう(笑)
新しいマーベリックの相棒——Ninja H2
対して、本作で新たに登場するマーベリックの愛車がカワサキNinja H2。
こちらは最新の(といっても発売は2015年だが)カワサキのバイクで、998ccのエンジンになんとスーパーチャージャーを取り付け、200psを発揮するモンスターマシンだ。
前作に登場したGPZ900R Ninjaの直系の子孫でもあるし、パワフルなバイクが好きそうなマーベリックにピッタリだといえるだろう。このバイクに取り付けられたスーパーチャージャーは、川崎重工業グループとして、航空宇宙カンパニーとガスタービン・機械カンパニーの力を借りて開発したと言われており、戦闘機がモチーフになっている『トップガン・マーベリック』に相応しいバイクだと言えるだろう。
ちなみに、筆者はサーキットで試乗したことがあるが、直線路でなら200psの恩恵を被れるのだろうが、コーナーの多い場所では、パワーは発揮できず、むしろ高速域での安定性を重視した少し重い車体とハンドリングを持て余した。元バイク雑誌のインプレライダーの立場で言えば「少し重いけど、パワーこそ正義!」というバイクである。
H2にはさらに、クローズドコースでの使用を前提としたH2Rというモデルが用意されている。こちらはラムエア加圧時には326psを発揮するという超モンスターマシン。そういう背景も含めて、クレイジーなマーベリックのイメージにピッタリなバイクのチョイスだ。
実はクルマも旧作を意識している
旧作のヒロインであるチャーリーは、実にクラシカルで美しいポルシェ356に乗っていた。黒いオープンで、サンディエゴの街によく似合っていた。
今作のヒロインであるペニーが乗るのは、356ほど古くはないが、それでも十分に古い空冷のナローのポルシェ911(初出時、930型と書いていましたが、知人から指摘をいただきました。「タルガが出てた」とSNSに書いている人もいたので、カットによって違う車両が使われてる可能性もあるかと思います。要検証ですね)。「やっぱりポルシェは空冷」という人が多いが、ペニーは趣味のいい「よく分かってる」女である……というのが演出されている。
なんといっても素敵なF-14AとF/A-18E/F
一番大きな世代交代は本作の主役ともいうべき戦闘機の世代交代だろう。
前作でマーベリックが乗ったのは、F-14Aトムキャットだ。
当時の米軍の最強戦闘機といえば、海軍のF-14Aトムキャットと空軍のF-15Cイーグルなのは男の子なら誰もが知っていただろう。特にF-14Aトムキャットは、グラマラスなボディデザインと、可変翼というギミックが魅力的だ。今、旧作を見返してみても、空中戦時には可変翼を開いて、高速飛行時には可変翼を閉じて……と、シーンによって飛行機のカタチ自体が変わるという意味で、表情があって本当に映画向きの飛行機だ。
可変翼は文字通り主翼の後退角が変わる仕組みで、速度を落としても大きな揚力を得る必要がある離着艦の時や空戦時には大きく翼を展開し、高速巡航時には翼を畳んで空気抵抗を減らすというわけだ。筆者は、ラジコン飛行機でこの仕組みを実現した人に聞いたことがあるが、翼を動作させることで大きく機体のバランスが変わってしまうので、畳むと同時にエレベータも調整して、水平飛行を続けられるようにしなければならないという。実機F-14Aトムキャットは初期には手動でこの動作を行っていたが、後に自動で行えるようになったという。
トップガンの劇中では派手に空中戦を繰り広げているが、実際には180kmもの射程を持つ空対空ミサイルを搭載可能で、20mmバルカン砲で戦う必要性はほとんどない。
対して、今回登場するのはF/A-18E/Fスーパーホーネット。
F/A-18自体は、高価なF-14Aトムキャットの代わりに数を揃えるために作られた飛行機で、F-14Aトムキャットより小型で廉価。しかも地上攻撃任務もこなせるマルチロール機だった(そのため、名称に『F』(戦闘機)だけでなく、『A』(攻撃機)とも付いている。
安くて、多用途なのが幸いし、F-14Bトムキャットより長期間使われ、今回使われたF/A-18E/Fスーパーホーネットという後継機を産むことになる。ちなみにEが今回マーベリックが乗った単座型で、Fがフェニックス達ペアになったチームが乗った複座型。
F/A-18E/Fは主翼面積、尾翼面積、ストレーキ(主翼肩の部分の胴体への延長部分)など、すべての面積が拡大されており、機体はかなり大型になっている。また、従来型では楕円形であった翼下のエアインテークが、ステルス性を高めるために並行四辺形になっているのも大きな変更点だ。電子戦の能力も大幅に向上してる。これらの変更により、モダンな戦闘機/攻撃機として通用するものになった。
もちろん、米軍の最新・最強の戦闘機はF-22ラプターやF-35ライトニングIIなのだが、ステルス機では味気ないと思ったのか、より飛行機らしい形状、セクシーな曲線を持つF/A-18E/Fが主役に選ばれている。劇中でも無人機が今後活躍することは語られるが「(まだ)今じゃない」と明確に否定されているのも趣味人であるトム・クルーズらしい。
他にも気になる飛行機がいっぱい
本作を見る前に旧作の『トップガン』を見返した。旧作での敵は劇中ではミグ28という架空の戦闘機で、モデルとされているのはF-5E/FタイガーII。割と小柄な戦闘機なので、敵としての迫力には乏しかった(敵より遠くにいるはずのF-14Bトムキャットの方が大きく見えたりした)。なのだが、戦闘シーンをあらためて見てみると、一部A-4スカイホークで代替しているような部分がある。空中戦の途中でF-5E/FタイガーIIになったり、A-4スカイホークになったりしているようなのだ。多分、F-5E/FタイガーIIで撮った映像が足りなかったのだろう。
その他にも、空母の上ではA-7コルセアIIが登場していたりなど、だいぶ時代を感じる。
余談だが、『トップガン・マーベリック』の冒頭の空母上からの発艦シークエンスの映像で、F/A-18E/Fスーパーホーネットが写ったり、F-35CライトニングIIが写ったりするのだが、その中でワンカット、F-22っぽいギザギザのついた角張ったスラストベクタリングノズルが見える。見間違いかもしれないが、F-35CライトニングIIのノズルは単発で円形だし、あれは何だったのか気になる。
今回の敵戦闘機は、『第5世代戦闘機(5th Gen. fighter)』と呼ばれているが、カタチからするとロシアのSu-57と思われる。当然のことながらさすがにこれは実機を入手するわけにはいかないからCGや模型を使ったのだと思われるが、「トム・クルーズ達が実際にF-18E/Fスーパーホーネットに乗った」という前宣伝が行き届いていたせいもあって、完全に違和感なく実機のように見えた。
ウクライナの実戦で能力を発揮していないことからだいぶ張り子の虎感の増したSu-57だが、映画ではたっぷりと悪役を演じており、途中で推力変更ノズルを使った機動をしてマーベリック達を驚かせており、面白かった。
実機が180機以上現存するP-51Dマスタング
マーベリックがプライベートで所有しており、倉庫でメンテナンスしたり、最後にペニーを乗せて飛んだりしているプロペラ機が第2次世界大戦の傑作機P-51Dマスタングだ。自分で整備してこれに乗ることで彼が「飛行機が本当に好き」という雰囲気を演出している。この飛行機、歴史に残る傑作機なのである。
P-51Dマスタングのルーツはノースアメリカン社がわずか120日という短い期間で設計から原型機のテストフライトまでを請け負った伝説的な出来事に遡る。同社は見事にそれを達成するだけでなく、スリムでパワフルな水冷エンジンを機首に搭載し、層流翼という最厚部を通常より後目にもってきて高速時の空気抵抗を少なくした翼型を採用することで、後世に残る傑作機を作ることに成功した。
初期のモデルはファストバック型(キャノピー後部が胴体になっている)で、アリソンエンジンを積んでいて凡庸な性能だったのが、後にロールスロイスのマーリンエンジンを搭載し、機体も大幅に改修し水滴型キャノピーを使うD型にいたって傑作機の名を確かなものにする。劇中に登場するのも(おそらく)この美しいD型だ(もっと後の型の可能性もあるけど)。
ちなみに、マスタングは1万7000機近くが作られ、世界中で大活躍する。登場機にも施されている胴体下と翼下の幅広いインベイジョン・ストライプは、大兵力でドイツ軍に対して攻勢をかけたD-Day時にあまりに多い味方を誤射しないために設けられた識別帯である。
大量に作られ、なおかつ戦勝国の戦闘機であったため現在でも180機以上が飛行可能。アメリカのエアレースイベントでは、エンジンをパワーアップし、翼端を切り詰め、大幅に改造し、派手なカラーリングを纏って、レースに使っている。リノ・エアレースで活躍するダゴレッド、ブードゥー、ストレガ、プレシャスメタルなどの機体はすべてP-51Dマスタングをベースにしている。
日本のゼロ戦が、本来の栄エンジンを搭載して、飛行可能な機体が一機しか存在しないのに比べると大違いだ。しかもその一機はアメリカにある。
ちなみに、P-51Dマスタングの価格はコンディションにもよるが、もっとも安価なもので2億3000万円ぐらいだそうだ(今は円安だからもっと上がっているだろうなぁ……)。ビジネスに成功し、操縦免許を取り、マスタングを買うのはまさにアメリカンドリームなのだ。
なんと、登場した機体はトム・クールズの私物らしい
ここまで書いて知ったのだが、劇中に登場するP-51Dマスタングはトムルーズの私物らしい。
数億円ぐらいなら彼なら造作もなく出せるだろうし、アメリカにはマスタングの飛行を教えてくれるスタリオン51という操縦訓練学校もあるそうなので、そんなことがあっても不思議ではない。
となると、エンディングのペニーを乗せて飛ぶシーンは、実際にトムクルーズが実際に操縦しているのかもしれない。そこまで『演じる』ことができるとはすごいことだ。
ちなみに、本来マスタングは単座。後席を広くとったTF-51という複座型もあるがバブルキャノピーが長くなるので劇中に登場する機体は一般的なP-51Dマスタングだ。おそらくパイロット背後の防弾板と無線機などを取り払って複座に改修してあるのだと思われる。狭そうではあるが、そりゃ、P51-Dマスタングを操縦できるのなら、誰かとタンデムしたいに決まってる。
F-14Aトムキャット、F/A-18E/Fスーパーホーネットと、海軍全面協力のトップガンにしては、陸軍航空隊のP-51Dマスタングを使うのは不思議だなぁと思っていた。現存機が多いからとはいえ、海軍を舞台としているのだから、コルセアやベアキャット、シーフューリーを使って欲しかったな……とか思っていたのだが、トムクルーズの私物というなら納得である。
(村上タクタ)